11年05月29日
ベトナム工科大学(Hanoi University of Technology)IT学部(日本のODAで設立)の第一期生89名が、2011年5月26日に卒論発表を行った。IT学部の第一期生には、ほかに3年生で立命館大学と慶應義塾大学に留学した20名の学生がいる。留学組は、今年3月にそれぞれの大学で卒業したが、ハノイで勉強していた学生が今回の卒論発表を行ったのである。
発表資料はすべて英語で書かれているが、学生はベトナム語で発表する。ただ、質疑応答は日本語を勉強している学部ということもあり、日本語、英語、ベトナム語の3カ国対応であり、学生にとってはタフが発表だった。
教室は卒論発表のお祝いでたくさん花が飾られている。原色鮮やかな花のおかげで、先生の厳しい質問も少し和らいだ気がした。発表のあとで、日本から来た私たちも含め、審査の先生たちには大きな花束が贈られた。
写真:ハノイ工科大学の卒論発表風景(グループ4・教室405)
さて、ハノイはたくさんの記号がある街だと思う。そのひとつがバイクだ。
私は10年前、初めてハノイを訪れた。道路を埋め尽くす無数のバイク、絶えず鳴らされるクラクション、そしてバイクに乗る人たちの熱気に圧倒されてしまった。そのときからバイクの写真を撮り続けている。車が増えてきた現在のハノイでも、その熱気は変わらない。
交差点では我先に飛び出そうとエンジンをふかす。信号はほとんどない。交差点を渡るのは命懸けだ、と思うのは私のような日本人だ。現地の人たちはなんとも思っていない。バイクや車の流れを遮りながら割り込む。人が横断するときも同じだ。向かってくるバイクの運転手の顔を見てはいけないと教えてもらった。といっても、なかなか勇気のいることだ。
その昔はみなヘルメットをかぶっていなかった。バイクに乗せてもらうのはいいのだが、ヘルメットがない。倒れたらどうするのか、と聞くと、たいして速度が出ていないのでまったく大丈夫ということだった。実際、後ろに乗せてもらったとき、最初は持ち手をしっかり握っていたのだが、慣れてくると手放しでも怖くなくなり、走りながら隣のバイクの写真を撮影したものだ。夏の夜、学生たちがバイクで並走しながらおしゃべりする姿を見ていると、涼しい風にあたりながら心が温かくなったのを覚えている。
法律が変わり、みなバイクに乗る人はヘルメットをかぶることになった。車と違ってバイクの形や色にはあまり違いがない。そのため、みなヘルメットの色や形や柄をファッションの一部として楽しんでいる。
写真:バイク、衣装、持ち物とコーディネイトしたヘルメット(2011年)
ヘルメットは10年間で変わったが、変わらないのは家族連れのドライブだ。子供を大人の間にサンドイッチにする。3人は当たり前であるが、子供を運転手の前と後に乗せた4人連れも多い。家族が肌を寄せ合って走る姿はとてもほほえましい。50年も前のことになるが、私も両親の間にはさまって、小さな三輪車のミゼットで江の島に海水浴に行ったことを思い出した。車のドライブもいいが、バイクの魅力はこんなところにあるのではないかと思う。
三丁目の夕日の時代には、家族が手をつないで歩く姿をよく見た。今はベビーカーを押して歩く風景に変わってしまったが、それにしても押しているのは若いお母さんが多い。お父さんの姿をあまり見ない。
ハノイでも、家族連れで歩く姿はあまりみない。でも、バイクに関する限り、お父さんの運転するバイクに家族全員が乗る微笑ましい風景が残っている。だから、これをハノイの記号にしたいと思う。ただ、意外に離婚の多い国なので、家族がほんとうに仲良しかどうかはよく分からないのだが。
街の記号はひとつに絞りたいのだが、日本にはない記号を是非とも披露したいと思う。次回は電線と洗濯物の話だ。
小川克彦