11年08月26日
お正月は浅草の初詣であるが、夏は江の島で海水浴が年中行事だった。まだ小学生だった昭和30年代の話だ。その頃と変わっていないのが、湘南海岸の夕陽の美しさだ。季節によって夕陽の隠れる伊豆半島の場所が違うように、逗子や葉山や江の島と、夕陽を眺める場所によって、まったく違った風情を味わえる。
寅さん映画「あじさいの恋」(29作目)のラストは江の島だった。いしだあゆみの気持を逆なでするかのように、寅さんは満男とばかり話をしていて、いしだあゆみの思いを聞こうとしない。俺のようなヤクザにはふさわしくないと、いつものようにマドンナの前から去っていってしまう。
湘南海岸にはよく行くのだけど、江の島は小学生のときに行ったきりだった。桜色の貝と赤銅色の江の島タワーをおみやげに買って帰ったことを覚えている。 遠足だったと思うが、子供にとってはいろんな遊び場のある大きな島という印象だった。
昨年の冬、おそらく50年ぶりくらいに江ノ島を訪れた。研究会のフィールドワークである。小田急江の島駅から島までの橋は長かったけど、エスカレータがあるせいか、入口からあっと言う間に江の島タワーについてしまった。このような経験はよくあるが、あの頃は小さかったんだ、と自分のことを懐かしく思うのだ。
天気のいい土曜日の江の島は、散歩を楽しむ老夫婦や親子連れで賑わっていた。商店街は人だらけだ。おみやげ屋も活気がある。しかし、天気にいい日の最大のおみやげは、何といっても相模湾の向こうに見える真っ白な富士山だ。誰でも橋を渡るときにカメラを向けたくなる、湘南の記号だ。日本の記号でもある。
小川克彦