2009年度 - 池田 理菜(総合政策学部)/高橋 杏奈(総合政策学部)
ケータイをはじめとするパーソナルな情報通信メディアの普及により、若者のコミュニケーション形態は変化しつつある。多くの先行研究(例えば栗原,2003)でこの変化については言及され、実証がなされていた。しかしその多くが特定のコミュニティ・フィールド内に限定した調査研究であり、生活領域全体にまたがるような視座から行われた研究はいまだ少ない現状にある。そこで本研究では対象をメディアとの親和性が高く、社会環境の変化を受けやすいと考えられる若者層に限定し、コミュニケーションの中でも強い紐帯が必要であると考えられる「相談」に着目する形で、対人関係やそれを築くメディアの選択がどのように行われているのか、またその背景にどのような価値観が存在するのか、データとの対話の中で探索的理解を図ることとした。
2007年10月から神奈川の県立高校の生徒237名、私立大学の生徒108名を対象に「同性の友人」「異性の友人」「家族」「彼氏/彼女」にどういった内容の相談をする時に重要であると感じ、またその際「メール」「電話」「直接会う」「連絡しない」の内どの連絡手段を用いるかのアンケート調査を実施した。その結果大学生、高校生共に過半数が相談において対面コミュニケーションが最も重要であると回答する一方、対人関係の構築方法における違いも明らかになった。その中でも特に私たちが注目したのが、高校生237名中37名を占めた「相談しない高校生」の存在である。既存の議論ではパーソナルな通信メディアの普及により「繋がっている」確認のし合いや「無意味なコミュニケーション」が若者の間で増えているという報告がなされ、「繋がる」と「女子(Girl)」を合わせた造語「ツナガール」という表現まで登場した。しかし私たちのアンケート調査によって明らかになった「相談しない高校生」は予定の調整・キャンセル等の事務連絡以外は「連絡しない」、つまり自己充足的コミュニケーションをしない傾向にあり、上記報告に反する若者像が浮き彫りとなった。
具体的にどのような対人的価値観や考え方が「連絡しない」という結果に結びつくのかを掘り下げていく必要性を感じ、上記の「アンケート調査」に加え1週間の日記を記録する「ライフスタイル調査」、4度に渡る「インタビュー調査」の以上3段階の独自調査によるデータの収集を行った。さらにその結果を先行研究や流行コンテンツと照らし合わせる分析することで、「相談しない」背景にある①「世代的価値観」②「内面的価値観」③「外面的価値観」の以上「3つの価値観」が明らかになった。
まず、「世代的価値観」とは、はじめのアンケートで高校生だけに見られた相談しない傾向が、実は大学生にも潜在的に見られる世代的傾向であることを指摘したものである。本論では詳細な分析の結果、「相談しない」傾向は、高校・大学と環境的要因に左右されない、2004年前後に18歳になった世代以降の共通の特徴であることを明らかにした。なお、この世代は、一般的に言われるゆとり世代とほぼ一致する世代であり、かつ思春期に情報通信メディアを当たり前のものとして受け入れてきた世代である。次に「内面的価値観」であるが、これは「土足で踏み込まれると迷惑」な自分の内面的領域を守るため、「許可」を直接相手から得るまで相手の内面に踏み込まない価値観を指す。すなわち、許可を取らず土足で相手の内面に踏み入ることは、相手の内面も傷つけ、結果、自分の内面にも踏み入られる可能性を作り出す「「2方向の迷惑」なのである。最後に「外面的価値観」についてだが、これは流行コンテンツの中に見て取ることが出来る。例えば、大人気漫画のONE PIECEの主人公は「あいつの過去になんか興味ねぇ!!」と「今」だけを見つめつつ、「助けて」と乞われると「当たり前だ」と応じ「相談される」まで待つ「カッコよさ」を表現している。これまで「見て見ぬふり」は「間違っている」行為と考えられてきたが、「誰しも人に軽々しく言えない悩みや過去をもっていることは当たり前」という意識の下、黙って「見て見ぬふり」をすることが相談しない若者の「カッコイイの新定義」なのだ。
これまでの先行研究において、若者は「同じ日本人であるという印象論から、新たな価値体系や価値観の下に形成されているという見方がなされにくい」立場にあった。しかし、私たちは同じ若者という立場から「年長世代とは異なった価値体系や価値観」を共有する若者目線で調査分析を行い、以上のような新しい「等身大の若者像」を構築した。
キーワード:若者,ケータイ,コミュニケーション,価値観,対人関係,相談行為,ONE PIECE
相談しない高校生―相談行為に関する若者の対人的価値観の分析―(PDF)
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